Anti-Gravitation Structure, Panel Number 4, 2007

 

Anti-Gravitation Structure, Panel Number 1, 2007

 

Installation View at 21st Centruy Museum of Contemporary Art, Kanazawa,  2008

 

反重力構造

 

 

地球上のあらゆるものは、生物無生物を問わず、地表にへばり付いている。哺乳類の進 化を見ても、魚類が陸に上がり、鰭が進化して四足歩行の哺乳類となった。四足が重力 を支えるのに最も適しているからだ。ところが人類は、この四足歩から立ち上がり 二足歩行を始めた。二足は常に手が使えてあまりにも便利なので、常に垂直の重力を支 えられるように骨格も進化して、現在に至っている。人骨構造の反重力構造の完成である。 

人類の文明化が進むにつて、建築もこの重力にいかに逆らって高いものを建てるかに興味が向けられていった。バベルの塔もピラミッドもその良い例である。世界最古の木造建築として知られるのは、法隆寺の五重塔で、建てられてから1300年あまり経っている。仏塔とは舍利と呼ばれる仏の遺骨を納める為の施設で、仏舎利はほとんどの場合地下の石室に納められている。塔の役割は重力に抗って空に向かって立つことである。他に何の機能も有しない。すなわち重力に抗えることを証明することが、権威と権力の象徴になったのだ。 

法隆寺の五重塔に次ぐ古塔は、奈良、当麻寺の東塔である。天平時代に建てられたと推測される。明治35年に全面解体修理がなされた際に、創建材を含む古材で、瘍んで重力を支えきれなくなってしまった部材が、明治の新材と交換されたのだ。その古材群が、どうした訳か最近になって巷に出てきた。私は千数百年の時間の重みを支えてきたその痕跡にいとおしさを覚えた。 

これらの古材を毎日眺めくらしているうちに、私は当麻寺東塔を原寸大で撮影してみることを思い立った。木造の塔は斗組という部材を重ねて重力を分散する構造になっている。奈良時代の組物は単純ながら逞しい姿で、重力を支えている。私はアトラスの彫像が天を支えているようにも見えるその構造を、美しいと思った。 

 

- 杉本博司



 

 

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- Hiroshi Sugimoto