前写真、時間記録装置

 

 

写真はアートの媒体としては絵や彫刻に比べると新参者である。しかし写真が発明された19世紀初頭以前にも、過去を正確に記録しておくことのできるすばらしい媒体があったのだ。この、「前写真、時間記録装置」とは化石のことである。もしこの技術をアートと呼ぶならば、これは間違いなく世界最古のアートと言えるだろう。しかしながらそのアートを意識化することのできる人類の発生以前の、ずいぶんと昔の話ではあるのだが。

化石は自然界の天変地異によって作られる。地震、地崩れ、海底火山の爆発、隕石の衝突などによって、いままでこの世を謳歌していた生命が瞬間的に死に埋もれてしまうのだ。その屍の上に降り積もった土や灰は亡骸の形を刻印し、その後数億年から数千万年をかけてその形を地層の中に閉じ込めて石にするのだ。その地層を剥がして見ると、降り積もった地層がネガとなってポジとしての化石が現れる。

私は5億4500万年前のカンブリア紀の様子を再現した海底ジオラマの撮影を始めた時に思った。このジオラマの三葉虫は化石を再び写真に撮って再化石化しているのだと。

私は写真とは現在を化石化する行為であるということに気づいた。

 

 

- 杉本博司